【登場人物】
F先生 6年目のアレルギー専攻医。
G先生 アレルギー専門医。
アレルギー専門医ほむほむ
コロナ下で集まれなくなったため、始まったZoom勉強会。
その途中で…
■ 年齢が低いうちに果物で口の中が痒くなる口腔アレルギー症候群(OAS)になったお子さん。どのように対応するのがいいのか?
小さいお子さんのOAS(口腔アレルギー症候群)の患者さんに関してなんですが…
園の年長さんから小学低学年ぐらいです。果物を食べると口のなかが痒いという訴えがあります。どのように対応するのが正解なんでしょう?山の中に住んでおられて、登校中も山道だったりします。確立したことがまだないのかなと思いますし、先輩の先生方に聞いても難しいよねで終わってしまうんですよね…
そうです。フルーツのOASです。親御さんがすごく心配されていて。
■ 雑草花粉のアレルギーは、イネ科・キク科がある。
花粉と交差する食物アレルギーってむずかしいよね。雑草花粉は草本類というんだけど、思った以上に総論は少ないんだ。ちょうど去年、小児アレルギー学会雑誌に総論を書いたので読んでみてね。
▷ 日本小児アレルギー学会誌 2019; 33:749-57.
アレルギーを起こす花粉は、スギ花粉以外にイネ科・キク科などがある
と、それはさておき、ちょうど山道が通学路って話があったよね。スギ花粉などの樹木の花粉に比較して、雑草花粉は飛ぶ距離が短いんだ。だから、その居住地域に応じても話がすごく変わるっていうのは確かだね。
例えばオオブタクサっていう、すごい背が高いブタクサがあるんだけど、河川にそって植生しているんだ。そしてオオブタクサに対する花粉症を調べると河川敷に住所が揃うっている研究結果もみたことがあるよ。
だから、先生のいう周辺環境をきくというのは重要なんだ。そして、雑草花粉は大きく分けてイネ科とキク科に分かれて、イネ科花粉はすごく交差しやすいので、12000種類もあるらしいんだけど”イネ科”でまとめることができる。でも、キク科はそれぞれけっこう違うので別々に考える必要があるんだ。
■ 花粉アレルギーの発症は低年齢化してきているのにあわせて、花粉に関連した食物アレルギーも増えている。
そして花粉症自体の発症が低年齢化していて、小学校低学年で5人に1人は花粉症を持っている時代になってきたんだ。ちょうど2020年の鼻アレルギーガイドラインが改定されたんだけど、さらに有病率が大きく増えたんだ。そういった状況も関係して、OASも増えているんだろうね。
▷鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症―2020年版(改訂第9版)
あと、OAS(Oral allergy syndrome;口腔アレルギー症候群)は意味が広い用語で、口の中の症状がある場合はぜんぶOASになっちゃう。区別のために、花粉に関連した食物アレルギーはPFAS(Pollen food allergy syndrome;花粉食物アレルギー症候群)という用語に変わってきているんだ。
▷食物アレルギー診療ガイドライン2016《2018年改訂版》
そのうえで、最近のメタアナリシスでは子どものPFASは4%~20%と報告されている。決して少なくない状況なんだけど、治療に関してはなかなか難しい状況なんだ。
▷Ann Allergy Asthma Immunol 2019; 123:359-65.
花粉食物アレルギー症候群(Pollen food allergy syndrome; PFAS)総論
たとえば、シラカバ花粉に含まれるBet v1にアレルギーになると近い蛋白質であるりんごに含まれるMal d 1に対するアレルギーを示すようになる。Bet v 1に対する免疫療法ができればいいんだけど(研究では有効性を示した報告がある)、一般的に日本ではダニとスギ花粉しか舌下免疫療法ができないしね。
そうですね、花粉側からは手段がなくて難しいですね。
だから、食物側から攻めていく免疫療法ができないかという報告が出てきてはいるんだ。
■ 花粉アレルギーに関連した食物アレルギーも『食べて治療』できる?
そう。2012年のAllergyの報告で、シラカバ花粉によるアレルギーとリンゴのPFASがある人に対し、リンゴを段階的に増量して摂取させると27人中17人が摂取可能になったと報告されている。
▷Allergy 2012; 67(2): 280-5.
リンゴアレルギーでも、経口免疫寛容は誘導できるかもしれない
そういうこと。でも、中断すると再燃したらしいんだ。とはいえ、そんな背景もあり、最近のシステマティックレビューをみると、すこしずつ”食べていくのもひとつの方法かも”という話もでてきている感じだね。
▷Lyons SA, et al. Dietary Interventions in Pollen-Related Food Allergy. Nutrients 2018; 10.
PFAS(花粉食物アレルギー症候群)を治療することは可能か?
そして、直接食べなくても舌下にアレルゲンを置くという舌下免疫療法もすこしずつ報告が増えてきているみたいだね。たとえば桃のアレルゲンであるPru p 3に対しての舌下免疫療法の報告なんかもある。
▷Allergy 2009; 64:876-83.
桃アレルギーに対し、舌下免疫療法は有効か?
じゃあ、食べる方法をすすめるのはありなんでしょうか?
■ 花粉アレルギーに関連した食物アレルギーの『食べて治療』は、現実的にはなかなか難しい
それがなかなか難しい問題だね。中断すると再燃する可能性が高いとかんがえると”ずっと食べないといけない”っていう生活になるからね。やはり、診断をしたら除去が基本じゃないかなと思うよ。そして診断は、プリックテストがゴールドスタンダードになる。
プリックテストはしています。陽性だとやっぱり症状がある場合が多いです。
そうだね。そして陰性であれば、おおむね症状がないことが多いよね。
で、陽性で症状があると、”食べられないものが広がってくるんじゃないか”と聞かれますし…プリックテストはしてみたものの、食べられないものがどんどん広がってくるとお伝えするしかないのかなあと思っています…
そうだね。花粉症が増えてくる年齢である以上、PFASもひろがってくる可能性は高いよね。
■ 『必要最小限の除去』という標準治療にそって、できるだけ悪化を防ぐという視点が必要がもしれない
そう考えると、逆に現在食べれるものは積極的に食べた方がいいとか、むしろ”いま食べられている果物は、食べましょう”という推奨をしていったほうがいいかもしれないよね。”心配なのであれば特に、積極的に食べられる範囲は食べたほうがよい”というエキスパートオピニオンもあるし。
そう。エキスパートオピニオンレベルの推奨は大きなリスクをはらむから、よく自覚をして推奨すべきだよ。でも、理にはかなっているし、そこにニーズはあるかもしれない。果物を積極的に食べることにリスクが大きいとも思えないから、無理でなければ、ご家族の心配にはそえる可能性はあるよね。そして食物アレルギーの標準治療の原則である『必要最小限の除去』の視点でもある。
もちろん、”毎日のように果物を食べるのはむずかしい”場合もあるよね。当然、無理に推奨する必要はない。『必要最小限の除去』という標準医療に沿うのが基本だからね。エビデンスレベルが低い治療は、つよく推奨するものではないよ。でもそういうさじ加減が必要なことだってあるよね。
(ほむほむ先生のプチセッション、ときどき更新します! ご期待ください。)
この記事の注意事項・免責事項は『プライバシーポリシー』の『個々のテーマに対する注意事項や免責事項・ほむセッション』を御覧ください。
ご多忙にもかかわらずプチセッションの更新本当にありがとうございます。
花粉症のあるお子さんがoasを発症する可能性がある、ということを保護者の方が知識として知ることは大切ですね。
わが子が、口の中が痒いと言っても美味しいからとトマトを食べさせ続け、栄養があるからと豆腐を食べさせ続けてしまったことは今でもかなり悔いていますし、無知とは恐ろしいと痛感しています。
私は、子どもが小学5年生くらいの頃にoasを知りました。
現在20歳の長女は2歳前からアレルギー性鼻炎で耳鼻科通い、いろいろな薬…抗生物質を処方されました。小学生になってからは漢方薬を飲んでみたり。結局改善されたのかどうかはわかりません。
りんご、トマト、桃、キウイ、大豆加工品等で口の中が痒く、耳の中まで痒くなるものもあります。大好きなものばかりなので、あまり我慢もせず痒くなったらチョコレートを食べて中和するという独自の解決策を施しているようです。
また、お風呂で温まると身体が痒くなり、腕には蕁麻疹が発出します。(キンカンを塗るとスースーして痒みが我慢できると言ってます)
もう20歳なのでうるさく干渉するよりは、自分の症状と上手に付き合って日々明るく生活して欲しいと願う今日この頃です。
なかなか難しいアレルギー治療だと思いますが、苦しむお子さんと保護者の方が救われる日が訪れますように。
先生方もどうぞご自愛されますように。
メッセージをいただきありがとうございます。
OAS(PFAS)に関しては、今後研究が進むことを期待しています。