【登場人物】
小児科レジデント1年目、T先生
T先生
アレルギー医・ほむほむ
ほむほむ
■ 2020/5/25 14:00 医局で……。
当直明けのほむほむ先生。
今度はT先生からなにやら質問があるようです。
6歳のお子さんの質問なんですが…一週間以上続く発熱と湿性咳嗽ということで受診された方です。
血液検査やマイコプラズマや溶連菌の検査をしたんです。迅速検査は陰性で、メジコンや去痰剤を処方して一週間後に症状がよくならないということで再診されたんですね。再度お話をよく聞いたら、毎年春に症状が出るということなので花粉症かなと疑ってアレルギーのセット検査を行いました。
この時期に、一番花粉症を発症するのがなにかはわすれたんですけど…スギがクラス5だったんです。それのアレルギー反応でしょうと抗ヒスタミン薬を処方したんですが……。
次良くならない場合はどうすればいいんでしょうか?
■ 処方を考える前に、診断を。普通のかぜでも咳は結構長く続く。
ふむむむ…うーんと、色々考えないといけないポイントがあるんだけど、まずは診断から考えないといけないかなあ。
そう。一般的な上気道炎、つまり感冒に関しては、発症して一週間でどれくらいの人の症状が良くなるか、わかるかな?
2013年のBMJにシステマティックレビューがあって、一週間での咳の症状改善は 2割くらいなんだ。そして、2週間で全体の半数は咳が改善してくるイメージになる。風邪症状全体としては2週間で概ね改善といった印象になるんだけどね。そういった見通しの話って結構重要だよ。
Thompson M, et al. Duration of symptoms of respiratory tract infections in children: systematic review. BMj 2013; 347:f7027.
■ 咳の様子はどれくらい変わった?
でも、1週間で咳が良くなっていなくても、おかしくはないよね。咳の様子がどのように変わってきたかを傾向で考える必要があるんだ。
ほむほむ
先生がいま、標高500mのところに立っているとしようか。
でも、0mから登ってきたのか、1000mから降りてきたのかわからないよね。
咳に関しても、例えば10段階で何段階目ですかと尋ねてみよう。そして、改善傾向か、悪化傾向かを考える必要性があるんだね。
もし、本当に風邪ならば、咳が1週間で残っていても、前回10だったものが5になっていればよくなり始めていると考えることができるよね。さらに1週間後にはさらに改善している可能性が高いわけだ。
そういった見通しをお話するといいかもしれないな。
■ 咳・鼻水・喉の痛み…どの症状がもっとも強い?
もし一旦改善してきていたのに、また悪化した場合は、『ダブルシックニング』といって二次感染を疑ったりするし、膿性鼻汁が10日以上続くとかなら副鼻腔炎を疑ったり、症状の動きを良く聞く必要があるんだね。
風邪の診療は、また別の機会に話すけど、鼻・のど・咳の3つの症状をトライアングルのように考えていくんだ。
抗微生物薬適正使用の手引き(第二版)(PDF)
それはさておき、今回は1週間続いた咳に、抗ヒスタミン薬を処方したわけだ。それ自体をいけないと言っているわけじゃないけど、さらに1週間後に受診された時に症状が改善していたらどうだろう。
風邪でも2週間で半数以上はもともと良くなるわけだから…
そう。抗ヒスタミン薬で良くなったように見えてしまう。これはね、抗菌薬でも良く起こる誤謬なんだね。もちろん、データやこれまでの経過、そして年齢からは、確かにスギ花粉症はあるかもしれないね。それでようやく、花粉症の治療をするかどうかを考えていくことになるね。
■ その咳、本当にスギ花粉症?
でも、ちょっとまって。まずは疫学的なデータを覚えておく必要があるんだ。
結構、風邪の診療って奥が深いんだよ。
スギ花粉症って2月からだいたい5月にかけてで、最盛期は3月なんですよね。5月のゴールデンウィーク明けぐらいには大体、症状が軽くなっていることが多いんだ。先生の話だと、ゴールデンウィーク明けからの症状でしょう?
花粉の時期はいつから・いつまで?
■ アレルギー性鼻炎は、鼻の粘膜もちょっとみてみる
ほむほむ
そして、診察や検査方法も、よく考えておく必要があるよ。
鼻粘膜を耳鏡で確認すると、下鼻甲介の腫脹とか鼻汁の性状がわかってくる。
例えば一般的な急性の鼻炎風邪による鼻炎は赤っぽくなるけど、腫脹はそこまでじゃないんだね。アレルギー性鼻炎の下鼻甲介は白っぽく見える。ただ、難しいのはスギ花粉症だと一般に赤っぽくなり、腫脹は強くて水っぽい鼻水が多くなる。スギ花粉症の場合はちょっと風邪の粘膜と区別がし難い場合はあるのは確かだけど。
うん。耳鏡は結構大事だよ。僕はマイ耳鏡ももってるくらいだ。それはさておき…
■ 『アレルギーのセット検査』をオーダーするのはトラブルのもと。
『アレルギーのセット検査』はあまりおすすめはできないなあ。いまね、『いま飛んでいる花粉が、どれかはよくわからないけど』っていう話があったよね。『よくわからない検査』は出してはいけないよ。これは、他の診療にもいえることだけど…
確かにわからない検査を確かに検査しちゃいけませんよね。勉強します。
そうそう。そして、アレルギーのセット検査ではView39やMAST36というような検査が多いんだけど、『わからずに出すとトラブルのもとになりやすい検査』の筆頭だからね。
そのとおり。そのうえで、小学校低学年でもスギ花粉症は多くなっていることは確かだ。最近の統計では小学校低学年前後でも2割以上のアレルギー性鼻炎があるからね。ただし、4歳までは数%程度なんだ。『春先に…』という話がいつ頃か始まったかも大事な情報になるだろうと思うよ。今回の咳が、直接のアレルギー性鼻炎でなくとも、副鼻腔炎のリスクにはなって咳の長引きの原因にもなるしね。
鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症-2016年版(改訂第8版)、鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会、ライフ・サイエンス、2015
小児のアレルギ—性鼻炎は、急性副鼻腔炎の発症リスクをあげるかもしれない
その上で、すでにスギがクラス5なわけだから、スギ花粉症がある可能性は高いね。でも、その検査法がどれでしたかをよく考えないといけないよ。僕が普段良く行うイムノキャップ法と、View39やMAST36は数字が全く違うし、換算もできないんだ。そのクラス5がどれくらいかもわからないんだね。
そして、アレルギー性鼻炎の治療は内服薬だけじゃないんだ。でも、アレルギー性鼻炎の治療に関しては、みんなを集めて話そうか。
いや、ちょっとまって…当直明けだから、明日でもいいかな…?!
…こんな感じでまた、スモールセッションは終了ー。
(ほむほむ先生のプチセッション、ときどき更新します! ご期待ください。)
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