ほむほむのプチセッション(15)卵アレルギーがあった6ヶ月の乳児。他の検査は事前にするべき?

【登場人物】

ST先生 9年目のアレルギー専攻医

KR先生 4年目のアレルギー専攻医

MY先生 9年目のアレルギー専攻医

アレルギー専門医ほむほむ

 

 

 

コロナ下で集まれなくなったため、始まったZoom勉強会の第3回目です。

 

6ヶ月で卵を食べてアレルギー症状。他の検査はどうする?

ほむほむ
ほむほむ
じゃあ、今回もはじめましょう!普段の臨床上での疑問点を聞いていっていいかな?

 

ちょっと初歩的な事かもしれませんが…いいでしょうか?
離乳食を食べ始めて最初は卵が多いかと思うんですけど、卵アレルギーで救急外来に受診されたかたに、ちょっと牛乳が心配ですとか何か他の食材に関して心配された時がありますよね。
そのときに血液検査をするとのか、あらかじめ検査をしておくべきなんでしょうか?
なかなか難しいなと思って。初歩的なとこでありますが…
KR先生
KR先生

 

ほむほむ
ほむほむ
それって、とても難しいテーマで初歩的じゃないとおもうなあ…

”鶏卵アレルギー発症予防に関する提言”の下敷きになった研究は?

ほむほむ
ほむほむ
そうだなあ、先生は”鶏卵アレルギー発症予防に関する提言”って知っていますか?
えっと、どんなのでしたっけ?
KR先生
KR先生
ほむほむ
ほむほむ
2017年6月に鶏卵アレルギー発症予防に関する提言が小児アレルギー学会から示されているんだ。それを元に、2019年3月に”授乳・離乳の支援ガイド”が12年ぶりに改訂されたんですよね。

 

「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」の解説

 

授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)

 

ほむほむ
ほむほむ
その改訂にあたり、アレルギーに関する大きな変更ポイントがあるんです。MY先生、ご存じでしょうか?
え…、スキンケアをする…とかですか?
MY先生
MY先生
ほむほむ
ほむほむ
うん、確かにスキンケアもそうなんだけど、生後5ヶ月から加熱卵黄を開始するというポイントが書いてあるんだ。以前はもっと後だったからね。そして、その授乳・離乳の支援ガイドの元になったのが”鶏卵アレルギー発症予防に関する提言、そしてその下敷きになった研究があるんだ。ST先生、なんだっけ?
Zoomの画像が止まっている…で、落ちた汗
ST先生
ST先生
ほむほむ
ほむほむ
あれ、回線が悪いのかな?
えっと、その下敷きになった研究はPETIT(プチ)研究だね。生後4~5ヶ月のアトピー性皮膚炎の乳児に対し皮膚のケアをプロアクティブ療法としてしっかり行って、皮膚がきれいになったら生後6ヶ月~全卵加熱粉末を、卵に換算して0.2gで開始し生後9ヶ月に1.1gに増やして1歳まで摂取を継続すると卵アレルギーの発症リスクは1/5になったという研究なんだ。
ほむほむ
ほむほむ
ただし、卵を食べていっても卵アレルギーの発症が予防できなかった人が8%いらっしゃって、その共通点があったんだね。それは、食べている途中に湿疹がぶり返した方だったんだ。すなわち、まず卵アレルギーの予防は、皮膚をきれいにして維持しなければならないということが分かったんだ。

加熱卵を少量で早期開始すると、1歳時の卵アレルギーを予防できる(PETITスタディ): ランダム化比較試験

 

なるほど。
KR先生
KR先生
ほむほむ
ほむほむ
PETIT研究は、湿疹のあったひとたちを対象にしているよね。いっぽうで、湿疹のなかったひとたちは、リスクが低いから、生後5ヶ月から固ゆで卵黄から初めてよいというのが、授乳・離乳の支援ガイドの考え方になるんだ。実際、最近の研究では、家族の食物アレルギーの既往よりも、本人の湿疹のほうが、その子の食物アレルギーのリスクを大きく高めることがわかっている。ここではさらに、4から10ヶ月に始めていても10ヶ月よりだと開始したときにすでにアレルギーを発症していて始められない可能性があがることが示されているんだ。

家族のピーナッツアレルギーと本人の湿疹の既往、どちらが強くピーナッツアレルギーの発症に関連するか?

 

ほむほむ
ほむほむ
つまり、湿疹のあった子どもで、開始する月齢があがってきた子どもは食物アレルギーを発症しやすい素因を持つといえるだろうということだ。
ほむほむ
ほむほむ
一方で、PETIT研究に参加した方は中等症以上のアトピーがあったので、血液検査で卵のIgE抗体価はほとんど陽性だったんだけど、すごく少ない量から始めるとプラセボ群とアレルギー症状をおこしたとされる人の差はなかったんだ。生後6ヶ月までの湿疹をよくして安定して、始めるのが6ヶ月以降でなければ、多くは(絶対ではないけど)血液検査陽性でもすごく微量の加熱卵ならおおむね安全ともいえる。でもスクリーニング的に血液検査をおこなうと、食べ始めることが難しくなる人が出てきてしまうから、やたらめったら検査をするのはお勧めできないんだね。
なるほど…
MY先生
MY先生

乳アレルギーのスクリーニングをするかどうか?

ほむほむ
ほむほむ
で、次は牛乳に関して考えてみよう。最近発症予防を500人以上のランダム化比較試験で成功させた研究が発表されています。ST先生は知ってるかな?
いろいろありますよねえ…規模は覚えていないんですけど、沖縄の先生方がされた研究でしょうか?
ST先生
ST先生
ほむほむ
ほむほむ
そうだね。沖縄の4病院で500人ぐらいの規模で行った研究で、粉ミルクを生後1ヶ月から3ヶ月まで10ml毎日飲ませてあげると牛乳アレルギーの発症リスクをほぼ抑えられるという研究結果を出されているんだ。SPADEスタディといいます。

生後1ヶ月から普通粉ミルク10mL以上を摂取していると、乳アレルギーが予防できる(SPADE試験)

 

ほむほむ
ほむほむ
一方で牛乳アレルギーは生後半年ぐらいに始めた人たちが一番リスクが高いんですよね。
Katz先生という方が、2010年に13000人のコホート研究から出された研究結果で、生後2週間以内に粉ミルクを始めた人たちが一番牛乳アレルギーの発症リスクが低いという結果を発表している。だから、卵とはちょっと違う開始時期だよね。だから、生後半年ぐらいで卵アレルギーがあったお子さんでも、その前の段階で粉ミルクをはじめている方は乳アレルギーのリスクが低いといえるよね。

 

人工乳を早期に導入すると、ミルクアレルギーが少ないかもしれない

 

ほむほむ
ほむほむ
じゃあ、乳アレルギーに関して、 ”ABC スタディ”を、MY先生知ってるかな?
??
MY先生
MY先生
ほむほむ
ほむほむ
慈恵の先生方がされた研究なんだけどなあ。生後3日以内に粉ミルクを飲んでいる子どもはその後乳アレルギーの発症リスクがむしろ高いという研究結果になっているんだ。それがABCスタディですね。

生後3日間の粉ミルクの追加は、その後の牛乳アレルギーの発症リスクを上げる?(ABC試験)

 

ほむほむ
ほむほむ
おそらくこれらの研究を軸に、今後乳アレルギーの発症の鍵を解くようになっていくんじゃないかなと思っているんだけど、まだまだこれから検討していくべき内容でもあるだろうね。SPADEスタディに関しては、最近Reply(論文への質問への公開回答みたいなもの)もJACIに発表されているから読んでみてね。完全母乳を推進されている方からはSPADEスタディは受け入れがたい方もいらっしゃるみたいなんだけど、もちろん完全母乳に関しては推奨はかわらないよ。ただ、乳アレルギーは発症したあとはかなり厳しくなり治しにくいこともあるからね。そして実際に乳アレルギーで誤食や負荷試験で亡くなったというケースは少なからず報告されているから、アレルギー科医としては難敵である乳アレルギーの予防のメカニズムにすこし希望がみえたんじゃないかなと思っているんだ。
そうですね…
ST先生
ST先生

アレルギーのスクリーニング検査は慎重に。

ほむほむ
ほむほむ
今回はちょっと脱線したから話を戻そう。
ほむほむ
ほむほむ
あとは小麦だよね。全く食べていなければ項目としてはあげていくことになるだろうね。というのも卵と牛乳と小麦で乳児の食物アレルギーの9割を占めるからね。
ほむほむ
ほむほむ
まとめると、スクリーニング検査は病歴のうえでおこなうことになって、湿疹の既往は大きなリスクになるからある程度のスクリーニングも考慮していいかもしれない。乳は事前に粉ミルクを飲んでいるかどうかは大きなポイントになると考えられる。そして卵・乳・小麦はそれだけで乳児のアレルギーの9割を占めるから、検査を考慮してもいいかもしれない…といったところかなあ。
わかりました!ありがとうございます!
KR先生
KR先生

 

注意点:この会話では『経口免疫療法』の視点も含めたテーマになっていますが、『経口免疫療法』はリスクがあるために一部の専門病院で行っている治療法です。ここでは『アレルギーのあるお子さんに対する対応をどうするかを医師がどのように悩みながら対応しているか』がテーマとお考えください。離乳食の開始時にご心配な方は、お近くのアレルギー専門医にご相談ください。

(ほむほむ先生のプチセッション、ときどき更新します! ご期待ください。)

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