【登場人物】
S先生 6年目のアレルギー専攻医
K先生 11年目のアレルギー専攻医
G先生 アレルギー専門医
アレルギー専門医ほむほむ
コロナ下で集まれなくなったため、始まったZoom勉強会の第2回目が開催されました。
その途中で…
ピーナッツアレルギーを疑って負荷試験をしたけど陰性。他のナッツ類はどうする?
では何か質問とか、話題提供とかありますか?…S先生、どうだろう?
そうですね…では、最近あったことで困ったことを…
ピーナッツアレルギーのあるお子さんで、ピーナッツバターをはじめて食べて呼吸器症状と皮膚症状があったとのことで、食物負荷試験を行ったんです。負荷量はどうだったかな、ちょっと忘れちゃったんですが、陰性だったんです。
それで、親御さんに聞かれたのは、ピーナッツ以外はどうすればいいんでしょうか?ということです。ピーナッツ以外は豆類でないので、アレルギーとしては違うものなのかなと思うんですけど…うまく答えられなくて。どのように解除するのがいいのでしょう?
そうだね…良く聞かれる話だし、そして難しい話でもあるよね。2001年に発表された古い表があって、あるナッツに症状がある場合に、他のナッツに症状がある可能性が結構高いといわれていたんだ。
論文から引用。
▷Journal of Allergy and Clinical Immunology 2001; 108:881-90.
ナッツ類を考えるときに重要な蛋白質”2Sアルブミン”
こういわれると、なかなか悩ましくなってくるよね。
そこで交差抗原の難しさに関して、まずは”2Sアルブミン”から考えてみようか。2Sアルブミン、って知ってるかな?
2Sアルブミンというのは、たとえば、種に貯蔵されている蛋白と考えるといいでしょう。種って、次世代に遺伝情報を伝えないといけない貯蔵庫ですよね?だから、とても強固な構造をした蛋白質を抱えているんだ。
貯蔵されるくらいの蛋白だから、壊れにくく消化酵素にもつよいのが2Sアルブミンということです。そしてピーナッツに含まれている蛋白質で、2SアルブミンにあたるIgE抗体が調べられるようになっている。なにかご存知ですか?
そのとおり。2Sアルブミンにあたる蛋白質は種子類(ナッツ類)でそれぞれ違う構造のものが含まれているんだ。最近保険で検査ができるようになったものがいくつかあって、クルミやカシューナッツでできるようになったんだ。なんていう名前だっただろう?
そうですね。聞き慣れないかもしれないけど、“英文字3つ+英文字1つ+数字”でアレルゲンを表す決まりがあるんだ。そしてこれらは2Sアルブミン、すなわち貯蔵蛋白なんですね。感度や特異度で有用な蛋白質に対する研究を行うと、これらの2Sアルブミンが特異度が高い検査として浮かび上がってきたんですね。それで有用性がみとめられて保険適応がおりたんだ。
▷J Allergy Clin Immunol Pract 2017; 5:1784-6.e1.
▷Asian Pac J Allergy Immunol 2019.PMID: 31175720 https://pediatric-allergy.com/2020/12/12/jug-r-1/(日本語訳)
ナッツ類を考えるときに”2Sアルブミン”とその他の蛋白質を意識する
でも、粗抗原、つまり“ピーナッツ”や“クルミ”という名前がついている検査は雑多な蛋白がはいっているから、検査の精度がさがってしまう。たとえば、その血液検査による予想の精度をさげる蛋白として“プロフィリン”が知られている。
そうそう。プロフィリンは多くの植物に普遍的に存在するんだけど、アレルギーを起こすことは少ないから、ナッツの粗抗原の血液検査をするとどれもこれも陽性になりやすい原因になってくるんだ。そのようにコンポーネント(部品となる蛋白質)の性質を考えつつ、事前の検査を組み立てていく必要がある。
ちなみに、Jug r1は子どもでは有用でも、成人ではやや有用度が低いという報告があって、Ana o3はちょっと陽性だと症状がかなり出やすいんじゃないかという報告があるようだね。
▷J Allergy Clin Immunol 2017; 139:688-90.e4.
▷Allergy 2017; 72:598-603.
とはいえ、ここまでわかってもなかなか難しいのがナッツ類だよね。結局は負荷試験をしないとなんともいえないからねえ…
12種類のナッツ類を負荷試験する研究でわかったこと。”やっぱりナッツは難しい”。
そうだよねえ…。
そして最近行われた研究で、そのことを明らかにしている結果があるんだ。
あるナッツにアレルギーが疑われた子どもに対し、12種類ものナッツを負荷試験してしまおうという研究だ。
すると、あるナッツにアレルギーがある子どもで、それ以外のナッツ1種類以上にアレルギーを示したのは6割もいたんだね。ただし一方で、中央値で9種類は食べられてしまった、という結果でもあったんだ。
▷J Allergy Clin Immunol 2020; 145:1231-9.
そうだよね。それぞれのナッツ類の相関関係も、[カシューナッツとピスタチオ]は0.86、[クルミとペカンナッツ]は0.76と高めだったんだけど、それ以外はいまひとつだったしね…。多くの場合は結局は食物負荷試験をせざるを得ないといえる。
ということで、どれもこれも食べられないということはなくて、でも負荷試験を結局はしないといけないという面倒なことには違いないんだと思っている。でも結構食べられる幅もあるだろうともいえるから、当科では、値が低いものは入院して同時に負荷を行ったりしているね。
あ、そういえば、最近クルミアレルギーのひとが増えているという報道があったよね。
▷クルミアレルギー発症急増 食品表示義務追加へ 消費者庁
とくにクルミは、頻度が上がっているかも…と、ちょっと気をつけたほうがいい相手かもしれないね。
(ほむほむ先生のプチセッション、ときどき更新します! ご期待ください。)
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