【登場人物】
小児科15年目小児循環器専門医M先生
M先生
アレルギー医・ほむほむ
ほむほむ
■ 2020/6/12 16:45 外来が終わったときに…
M先生は勉強家で、ほむほむの外来をよく見学されています。
その終了時に…
■ 重症のアトピー性皮膚炎の子ども、どれくらいのスパンで改善する?
先生は、アトピー性皮膚炎がすごくひどくなって、苔癬化がつよくなったお子さんをたくさんみていらっしゃいますよね。年齢が高くなって痒疹があったお子さんも。でも外来をみていると、みなさん改善されていますよね。
そんな患者さんは、実際にどれくらいのスパンで改善してくるものなんでしょうか?
■ 最初の重症の状況は数ヶ月で脱するけど…
初診までの期間と、初診時の年齢によっても随分異なってきますし、実際に治療にむかわれる実行度によっても大きく変わってしまいますから。
でも、年齢が低くて、そうですね、たとえば低年齢で初診した患者さんなら、1~3ヶ月もすれば苔癬化はほとんど取れてしまうと思います。
そして、ステロイド外用薬の減量もだいぶん見えてきていると思います。
ただ、1~3ヶ月で『治った』ではないんです。
むしろ、そのあと安定して減量を目指す必要性があります。その先は特に、スキンケアがどれくらい丁寧に続けることができるのか、そこに多くを依存してしまうんです。
そうですよね。なかなか続けてもらうことが難しいですよね。
■ 最初の重症の状況は数ヶ月で脱するけど…
ステロイド外用薬を使えば、たしかに多くの場合は効果があってよくなりますよね。それは実感として患者さんも持たれると思うんです。
行動科学的に考えれば、ある行動をとった後にそのひとにとって嬉しいことがあると、その直前の行動が強化されます。だからステロイド外用薬を塗る、という行動は強化されやすいんです。
でも、ステロイド外用薬は毎日塗ると皮膚が薄くなってしまうなどの副作用がありますよね。そうすると毎日塗りつづけると最終的に袋小路にはいってしまうんです。
ですので、必ず保湿剤であったりを挟んでいくわけです。
そこを続けていただくのは、なかなか難しいんですよね…
そのとおりです。
すでにきれいになっている皮膚に対してスキンケアを続けることは行動が強化されにくいんです。
保湿剤を塗っても、翌日もきれいなままであったり、場合によっては頑張って皮膚をきれいにした後に保湿剤の日を作るとむしろ悪化する場合だってありますよね。だから行動科学的には、保湿剤を塗るという行動は少しずつ弱くなってしまいがちなんです。
■ 受診ごとのコミュニケーション
ですので、受診ごとに治療の見通しとか、現在がんばっておられることを共感したり、良くなっていることを賞賛したりということはとても重要だと思っています。でも、賞賛するにしても、ご家族によってポイントを変えていくことも多いですよね。今日、先生にみていただいた場合も、患者さんによって言い方を変えていたと思うんです。
確かにそうでしたね。
ちょっと冗談っぽくお話する場合もあれば、真剣なお話をされている場合もありましたね。
冗談ぽくお話していた方には、とても信頼関係があることが端から見てもよくわかりましたが。
行動科学的に言えば、賞賛という方法は慣れが生じるんです。ですので、ちょっとずつ話し方も変えていくことも多いです。
そして、局所的に悪化した部分への具体的な指示をしていくことになります。全員ではないですけど、治療が変更になった方には書いて渡していますよね。
■ 治療の具体的な方針を書いたメモ
でも、文書に書いてお渡しすると、治療効果が高くなるっていう報告もあるんです。
行動科学的には行動的翻訳っていうのかな、あいまいな指示よりも具体的な指示のほうが実行に移しやすくなるんですね。
アトピー性皮膚炎児に対し、スキンケア方法を書いて説明したほうが症状が改善するかもしれない
さらに言えば、次に受診されたときに、前回から今回までの患者さんと我々の方針の齟齬が起こりにくくなりますよね。「そんなことは言われていない」なんていう話もなくなりますし。
問題は、メモがないと”今日はメモがありません”という話になってしまうこともあるってことですかね(笑)
■ 行動科学的に考えていって、シェイピングを目指す
そして、少しずつ達成可能なラインをあげていって、最終目標へとシェイピングしていくことになります。シェイピングも行動科学の範疇の用語ですね。
偉そうにいいましたけど、こういう理屈っぽいのはなかなか使える場合とそうでない場合もあるんですけど…。
行動分析学入門 ――ヒトの行動の思いがけない理由 杉山尚子著
毎日のケアが難しそうな場合に、目標をどこに掲げるかを時々確認はしたほうがいいですよね。
そうですね。プロアクティブ療法をはじめるときに、「ステロイド外用薬を減らしていくために」「毎日1日2回以上のスキンケアができるかどうか」を確認してから治療にはいるのですが、その目標が変わっていないかどうかを確認するのは重要だと思っています。
でも、医者は私も含め、得てして治療をしたがるものなのですが、患者さん自身が毎日のケアが難しくなってくる場合だってあるでしょう。
アトピー性皮膚炎を含め、アレルギーの病気は、多くは治療目標を掲げることができるのですが、その最終目標を下げるかどうかの相談をするケースがでてくるのです。
スキンケアが朝晩続けることが難しくなると、プロアクティブ療法はかえってリスクが高くなる可能性だってあるわけです。場合によっては毎日のケアが苦しくてステロイド外用薬を中止できなくても困らない、という方もいるかもしれないですし。
■ 行動科学的に考えていって、シェイピングを目指す
『言われたとおりに頑張っているのに』というお話もあったりしますよね。
そうですよね。ある程度おおくの患者さんを診察していると、いつ頃、どれくらい良くなってくるかは体感としてわかってくるのですが、実際の実行は難しいものですよね。僕自身が見落としていることも出てくると思うんです。僕は、『それは困りましたね。では、”僕が”見落としていることがあるかもしれません。具体的にどのようにしているかを教えていただけますか?』と実際にいまどのようにされているのかを掘り下げて聞いてみることにしています。この場合は、患者さんよりも、僕ができていないことを強調したほうがいいのかな…と思ってます。
『できてない』と責めることは、なにも産まないんじゃないかなって。そして多くの場合は、うまく僕の意図が伝えられていないものなのだろうと。一方で、スキンケアは毎日くりかえしていることなので、実際に続けていることはスムーズにお答えいただけるんです。問題点があるかどうかはだいたい伝わってくるんじゃないかなって思います。そして、問題点がなければ『わかりました、十分頑張っておられますので、ステロイドの強度を増やしましょう。大丈夫、きちんとできている方はまた、減らすことができますから』といったお話をしていますが、これも患者さんごとに話を変えますね。
いやいや、この話は僕にとっても理想論なので…
僕も、伝えることを沢山失敗したりしていますし、全然ですよ…先生も実際は、普段の治療では同じような対応をされているのだと思います。
なにはともあれ、偉そうなことをいいましたが、なんだかんだと粘っているうちに頑張られた患者さんが改善してくださるのですよね。
いやいや、なんだか話がおもくなっちゃたので、そろそろ休憩にしません?
…こんな感じでまた、スモールセッションは終了ー。
(ほむほむ先生のプチセッション、ときどき更新します! ご期待ください。)
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