ほむほむのプチセッション(16)『卵アレルギーは自然に良くなるから、待てばいいですよね?』という質問に、どのように説明する?

【登場人物】

ST先生 9年目のアレルギー専攻医

KR先生 4年目のアレルギー専攻医

MY先生 9年目のアレルギー専攻医

アレルギー専門医ほむほむ

 

 

 

コロナ下で集まれなくなったため、始まったZoom勉強会の第3回目。

前回の続き。

 

3歳くらいで卵アレルギーはよくなるから、除去で様子を見ればいいですよね?という質問にどうお答えする?

ほむほむ
ほむほむ
15分使っちゃいましたが…、そうだなあ、MY先生、何かほかに質問ありますか?
うーんと、質問じゃないんですけど先生の説明の仕方を教えて頂きたいです。
卵のアレルギーがあって、”3歳ぐらいで卵アレルギーはよくなりますよね、上の子もそうでした、だから負荷試験とかもしなくて自然に待てばいいですよね”っていう患者さんに対してどうやってアプローチしてますか?
MY先生
MY先生
ほむほむ
ほむほむ
そうだなあ…
ほむほむ
ほむほむ
まず、卵と牛乳と小麦とそれぞれコホート研究があります。コホート研究に参加された一部の人が食物アレルギーが発症しますよね。そして、そのお子さんが16歳くらいまで改善するかを前向きにみていくわけです。そうすると、特異的 IgE 抗体価が高い方の方は改善率がとても低いことがわかったんですね。たとえば、卵白特異的IgE抗体価が50以上だったりすると、たとえば小学校入学時点まで改善して食べられるようになるお子さんはとてもすくないんですね。

卵アレルギーの自然歴: コホート研究

牛乳アレルギーの自然歴: コホート研究

小麦アレルギーは、いつ頃改善するか?

 

ふむふむ…
MY先生
MY先生
つまりIgE抗体価が低く、経過をみていって下がってくるお子さんは、スキンケアだけでも良くなる可能性はあるよね。ですので様子を見る方法も全然ありますし正解だよね。でもまあ、IgE抗体価が低い方のほうが必要最小限の除去をおこないやすいし、早く改善させやすいともいえますけどね。ともかく、IgE抗体価がたかくて小学校入学時まで様子を見て、結局症状がよくならなくて食べれないままというと厳しいよね。そういった見通しをお話しすることはとても重要なんじゃないかなと思っています。
なるほど!
MY先生
MY先生

もう一つの問題は…

ほむほむ
ほむほむ
さらにもうひとつ問題があります。
!?
MY先生
MY先生
ほむほむ
ほむほむ
LEAPスタディってしっていますか?
なんでしたっけ…、ピーナッツの研究でしたっけ?
MY先生
MY先生
ほむほむ
ほむほむ
そうそう。英国の乳児640人に対して、生後4から10ヶ月にピーナッツを食べ始める人たち、もう片方はピーナッツを食べない人にランダム化して5歳まで経過を見るという研究です。すると5歳でのピーナッツアレルギーが1/10になったという結果が2015年に New England Journal of medicine に発表されたんですね。

ピーナッツを早期に摂取開始したほうがピーナッツアレルギーが減少する(LEAPスタディ)

 

ふむふむ…
MY先生
MY先生
ほむほむ
ほむほむ
この研究は食物アレルギーの発症を予防研究として最初の大規模ランダム化比較試験だったんですが、 その後、LEAP-ONスタディという研究が、やはりNEJMに発表されています。さて、どんな研究だろう?
えーっと…なんでしたっけ?
MY先生
MY先生
ほむほむ
ほむほむ
これはね、LEAP研究に参加して5歳まで経過をみることができたひとたちを、今度は1年間ピーナッツの除去を指示したんだね。でも、新規にピーナッツアレルギーになった人は3人しかいなかったという結果になりました。非常に安定してたってことです。

乳児期に早期導入して予防した食物耐性は、中断しても維持される(LEAP-ONスタディ)

ふむふむ…
MY先生
MY先生

 

ほむほむ
ほむほむ
一方で、すでにピーナッツアレルギーを発症した子どもに、ピーナッツに対する経口免疫療法するという研究もいくつもあります。たとえば初期の研究としてSTOP IIスタディという研究があって、ピーナッツアレルギーのある7-16歳の子どもにすこしずつピーナッツをふかしていくと8割はピーナッツが5粒程度食べれられるようになったという結果でした。でもね、その後、食べられるようになっても完全除去をすると、また多くは食べられなくなってしまうということがわかったんだね。

ピーナッツ経口免疫療法(STOP IIスタディ)の結果

食物アレルギー治療の現状は?:患者さん向け

 

ほむほむ
ほむほむ
ここで、おおきな違いが見えてくるよね。1歳未満で開始したお子さんは、5歳まで継続するとかなり安定した。一方で年齢が高くなってから治療を開始したお子さんは、頑張って治療して食べられるようになっても、中断するとほとんど再燃した、ということだ。
すごい差ですね。
MY先生
MY先生

年齢が高くなってからの免疫療法は、維持が難しいケースがある

最近になって、さらに食べられる状態を維持することに関しては研究結果が発表されていて、ピーナッツの免疫療法をおこなってたべられるようになった後、ピーナッツを10粒たべる様に指示を受けた群、1粒程度を食べるように指示を受けた群、たべない群にわけてどれくらい維持できたかをみた研究があるんだ。
すると、食べない群はあっという間にたべられなくなって、10粒の群はだいたい維持できたんだね。で、1粒の群が問題で、やっぱりだんだん食べられなくなっていったんだ。

ピーナッツに対する経口免疫療法が成功しても、少量の摂取継続では維持できないかもしれない(POISED試験)

 

ほむほむ
ほむほむ
そうなると、ピーナッツアレルギーの治療をがんばったとしても10粒を継続してたべないといけないとなる可能性があるよね。なかなか厳しい印象がないかな?
たしかにそれはなかなか厳しいですね。
MY先生
MY先生

経口免疫療法は、まだまだわかっていないことが多く残されている

ほむほむ
ほむほむ
ここまででわかることは、早めに始めた方が良い『可能性』があるって言うだけで、まだまだ経口免疫寛容にはわかっていないことがたくさんあるからねえ…一般的にTレグの誘導と言われてはいますけど…Tレグってなにかしっていますか?
調節性T細胞、ですね。
MY先生
MY先生
ほむほむ
ほむほむ
どんな細胞?
えーっと…
MY先生
MY先生
ほむほむ
ほむほむ
えっと、ちょっと話が脱線するかもしれないけど… ヘルパーT細胞にはTh1、Th 2というレパートリーがあるわけだけど、昔の学説でTh1/Th2バランス仮説というのがあるんだ。Th1がヘルパーT1、Th2がヘルパーT2だね。
ほむほむ
ほむほむ
生まれたばかりの赤ちゃんはTh2のほうに傾いている。Th2の方に傾いていた方がおなかの中にいるときにお母さんから免疫的に拒絶されにくいからそうなっていると考えられている。そして生まれてから感染症などを繰り返していくとTh1がそだっていってバランスが取れてくる、でも感染症が少なくなったためにTh1がそだたなくてTh2が高くてアレルギーになりやすい…Th1/Th2バランス仮説…です。
なるほど…
MY先生
MY先生
ただそれだけだと説明がつかないことがたくさん出てきたんですよ。
!?
MY先生
MY先生
すごくわかりやすい仮説だったんだけど、たとえばTh1が高いと発症しやすい自己免疫疾患が増えていることが説明がつかなくなったんだ。そこに登場してきたのがTレグです。京都大学の坂口先生が発見したから覚えておこう。雑な説明をすると、Th1とTh2の仲立ち、調整役をする細胞なんだ。調節性 T 細胞を増やすという意味はそういう細胞を増やすということということだ。
で、ちょっと戻ると、赤ちゃんの時はヘルパーT細胞がまだ成熟していないナイーブT細胞が多い時期なので、その時期から教育して成熟性T細胞にすると崩れにくいんじゃないかという考え方につながってくる。LEAP-ONスタディの結果は、そういうことを反映している可能性があるんだ。まあMY先生に、いまから弁護士になろうぜって教育しても、1年くらいの勉強じゃあまた医者にもどりたがるようなものかもね。
(笑)それはそうですね。
MY先生
MY先生
ほむほむ
ほむほむ
最初の質問にもどるよ。
スキンケアをしながら待つ、というのは一つの方法だよね。ぜんぜん間違いじゃないよ。でも、特異的IgE抗体価が高いときは先の見通しが厳しい場合があることもお伝えするべきだよね。
そして、年齢が高くなるまで持ち越した場合は、もし治療をしてうまくたべられるようになっても、食べ続けなければならないという制約がより可能性としてのこるかもしれないということだね。そのあたりを丁寧に説明をして、考えていただく必要があるだろう。
ありがとうございます。納得がすごくできました!
MY先生
MY先生

 

注意点:この会話では『経口免疫療法』の視点も含めたテーマになっていますが、『経口免疫療法』はリスクがあるために一部の専門病院で行っている治療法です。ご心配な方は、お近くのアレルギー専門医にご相談ください。

 

(ほむほむ先生のプチセッション、ときどき更新します! ご期待ください。)

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