連載(5)「SNS医療のカタチ」はどうやって生まれたのか

2019年夏頃から、京都での医療エキスポ開催に向けて計画は着実に動き始めていた。

京都市内に数千人規模の催しができる会場を予約し、日程を2020年8月23日と決定した。

 

メイン会場は、収容人数300人。

医師をはじめとする医療従事者と、他業界の著名人とのトークセッションを行う。

隣のイベント会場には10〜20のイベントブースを設営。

会場にやってきた方々がブースをめぐりながら医療に関して楽しく学べる空間にする。

京都に35店舗を持つ大型書店「大垣書店」とタイアップし、医療に関する書籍販売も行う。

 

イベント開催には数百万円規模のコストがかかる。

大塚は、日夜スポンサー集めに奔走した。

各団体、関係者とともに会議を繰り返し、具体的に計画を進めた。

 

そろそろエキスポの告知を、と思っていた2020年3月上旬。

急に雲行きが怪しくなってきた。

新型コロナウイルス感染症の影響で、各種イベントが次々と中止になり始めたのだ。

だが、我々のイベントは8月だ。さすがに開催できるだろう。

まだそう思っていた。

 

ところが、事態は好転する兆しがないどころか、ますます悪化した。

6月、7月開催の学会が次々と中止を決定し始めた。

8月の医療エキスポ開催は難しいのではないか。

そんな意見が出始めたのはこの頃だ。

 

ここまで大勢の方々の協力を得て、何ヶ月もかけて計画を進めてきた。

大型の会場には、かなりのキャンセル料も発生する。

すでに講演を依頼している著名人の方々には、多大なご迷惑をおかけしてしまう。

何か方法はないだろうか。

 

2020年3月中旬頃、新しい案が出た。

講演者と限られた聴衆のみが京都の会場に集まり、その模様をウェブ中継する形で行うのはどうか、というものだ。

今の状況で、会場に大勢の聴衆を集めるタイプのイベントを告知することはできない。

だが、少数だけなら問題ないのではないか。

 

しかし、事態は悪化する一方だった。

テレビの出演者ですらお互いに距離をあけ始め、そのうち自宅からのリモート出演が中心になった。

登壇者が全国各地から京都に集まること自体、実現が難しくなった。

 

2020年3月末、私たちはついに京都での開催を断念。

全てをオンラインイベントとし、全出演者がリモートで出演する方針に変更した。

イベントの名前は「医療エキスポ」から「SNS医療のカタチTV」に変更。

テレビと同様の機材を使い、インターネットテレビを作る、という大幅な方針転換である。

 

だが、問題は費用だった。

インターネットテレビの放送には、機材費から人件費まで400万円近くコストがかかる。

大型会場で行うイベントと違い、スポンサーが集まりにくい。

まして新型コロナの影響もある。

消費は冷え込んでいて、とてもお金は集まらない。

 

クラウドファンディングをやるのはどうか。

その意見は何度も出て、そして何度も消えた。

このご時世だ。

オンラインイベントに数百万円かかるなど、誰が理解してくれるだろう。

 

私たちはそれぞれ、イベントのコストに頭を悩ませた経験を持つ。

有料でやれば、「高い」「金を取るのか」と批判を受ける。

無料でやれば、「講演料を取れ、不健全だ」と批判を受ける。

 

だが、「SNS医療のカタチ」だけは、ボランティアイベントとして確固たる意図を持ってやってきた。

私たちがやりたくてやっている。

「そういうことをやりたい医者が結構いるのだ」という、一つのサンプルを示すことが大切なのだ。

そういう思いでやってきた特別なプロジェクトだ。

他はともかく、このプロジェクトだけは商業色を出したくない。

 

とにかく今回は、分が悪すぎるのだ。

今、あらゆる企業が、あらゆるイベントが、苦労している。

私たちがここで無理をして、信用を失う方が危険ではないか。

 

2020年3月30日。

私はweb会議で、イベントの全面中止を提案した。

これ以上粘ると、かえって収拾がつかなくなる。

これまで協力してくれた方々に頭を下げよう。

幸いまだ告知はしていないから、誰もこの計画が進んでいることを知らない。

今なら間に合う。

残念だけれど、もう手を引こう。諦めよう。

 

「これ以上みんなに迷惑はかけられない」

堀向が賛同した。

「延期にしましょう。落ち着いたらまたやればいい」

市原が賛同した。

 

イベントは中止。web会議はこれにて終了。

その雰囲気でまとまるかに見えた。

 

だが。

大塚だけが反対した。

 

何とか開催したい。

今、この暗い、淀んだ空気を明るくしたい。

それが僕らに与えられた役目ではないのか。

ゆったりと、いつもの調子で、そう言うのだった。

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