連載(4)「SNS医療のカタチ」はどうやって生まれたのか

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連載(3)「SNS医療のカタチ」はどうやって生まれたのか

 

病理医ヤンデルこと市原真は、私たちに繰り返しこう言う。

「あなたたちは、僕と適度に距離をとった方がいい。僕のことを嫌いな人もたくさんいるから。あなたたちが僕のイメージに染まらない方がいい」

市原は私たち三人(大塚・堀向・山本)を「オリジナル3」と呼ぶ。

あくまで「広報役」として、自らの活動を理知的に制限しているのである。

 

私たちが市原の広報力を初めて目の当たりにしたのは、2019年8月のことだった。

第3回「SNS医療のカタチ」は、特別ゲストとして市原を迎え、札幌で開催することに決定した。

毎回、参加無料・申込不要として開催するこのイベント。

蓋を開くまで何人の聴衆が来るのか全く分からない。

 

ただ、人口規模から考えても、120人だった東京よりはずいぶん少ないだろう。

しかも、お盆のど真ん中という悪条件である。

私たちは、札幌駅前に60人程度の会議室を予約し、開催日を待つことにした。

 

ところが、開催が決定するや否や、特別ゲストに過ぎなかったはずの市原が猛烈に広報を始めた。

私たち3人がお盆の最中に札幌に自腹を切ってやってくることを茶化し、Twitter民を盛り上げ続けた。

この企画がいかに魅力的であるかを度々語り、繰り返し宣伝した。

 

彼はそもそも日頃からツイート量が多い。

ゆえに、宣伝の「しつこさ」が私たちよりは鼻につかない。

告知時にタイムラインを見逃した人を取りこぼさない。

フォロワー数が多く、そもそも声の届く範囲が広い。

 

それでも、まだ私たちは懐疑的だった。

何せ、お盆の札幌である。

さすがの「病理医ヤンデル」でも、そんなに人を集められるはずがない。

 

だが、開催当日、TKP札幌の前には衝撃的な光景が広がっていた。

会場前から廊下、階段を経由して階下に至るまで長蛇の列ができ、会場が大混乱に陥っていたのである。

会場に詰め掛けた聴衆は150人を優に超えていた。

予約した会場のキャパは60人だ。

とても立ち見で済む話ではない。

 

TKPの厚意で急遽100人収容可能な会場に変更し、再度会場の設営をし直すことになった。

それでも全員入らない。

立ち見どころか、地べたに座る人も多数現れた。

 

結局、会終了後のアンケートでは、

「人数をきちんと把握してほしい」

「会場が狭すぎる」

といった苦情が相次ぎ、私たちは猛省することとなった。

同時に、広報の方法から会場の選定、イベントの作り方に至るまで、多くのノウハウを学ぶことができたのだった。

 

このイベントにはもう一つ、重要な副産物があった。

NHKから取材依頼があり、会の様子を最初から最後まで撮影、これを朝のニュース番組「おはよう日本」で放送したのだ。

この時の取材が、NHK総合「フェイクバスターズ 」という特別番組につながった。

 

NHKは、私たちが日頃から呼びかけている、医療デマに騙されないための手法を素晴らしい形で全国に届けてくれた。

 

さて、この頃から、2020年夏に京都で大きなイベントをやろう、という話が現実味を帯びてきた。

その名も「医療エキスポ」である。

医療従事者と、一般の方々とが様々な形で交流し医療を学ぶ、かつてない意欲的なイベントだ。

大塚がすでに様々な団体にアプローチし、暗躍を始めていた。

 

大阪、東京、札幌と開催してきた「SNS医療のカタチ」を、2020年春には名古屋、福岡などに広げ、ひとしきり盛り上がったところで告知すればいい。

お盆の札幌でこれだけ人が集まるのだ。

きっとうまくいく。

そう思っていた。

 

ところが私たちは、予期せぬ事態に頭を抱えることになる。

未曾有の感染症が、予想もつかない速度で拡大し始めていた。

 

連載(5)「SNS医療のカタチ」はどうやって生まれたのか

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