ほむほむのプチセッション(11)濫用するとリスクがある気管支拡張薬、どのように説明する?

【登場人物】

小児科レジデント1年目、F先生

F先生

アレルギー医・ほむほむ

ほむほむ

ある日医局で…
またF先生が、なにか質問があるようです。

 

■ 喘息に対する気管支拡張薬、頼りすぎないためにはどうしますか?

お願いします。

喘息の管理において、発作治療薬としてSABA(短時間で有効な気管支拡張薬)を処方することがあるかと思います。

ガイドライン上ではあまりSABA吸入に頼りすぎず、長期管理をしっかりしましょうと書いてあるのですが、具体的にはどのように指導して行ったらいいでしょうか

F先生
F先生
ほむほむ
ほむほむ
とても良い質問だと思います。
ほむほむ
ほむほむ
有効性の高い吸入ステロイド薬がなかった昔を経験している僕らの世代は、SABA吸入をしすぎると問題があるっていうのを実感しているんだ。
だから特に心配しやすいのかもだけど、今は逆に気管支拡張薬をやや過剰に処方しているケースが増えてきてる印象があるね。
だからこそ、普段の治療を見直すことも考えたほうがいいよね。

 

■ 気管支拡張薬の濫用がまねいた『ベロテック事件』。

ふむふむ…
F先生
F先生
ほむほむ
ほむほむ
1995年と古い報告なんだけど、SABAのひとつであるベロテック(フェノテロール)の問題を指摘した事件が報告されているんだ。
ベロテック事件は、ニュージーランドでベロテックをたくさん使ってる方に喘息で亡くなる方が多いとわかって、ベロテックを禁止にしたところ、その後の喘息死が減ったという報告だね。
あくまで前後比較研究だけど、よく心しないといけないよね。

フェノテロール(商品名ベロテック)濫用により死亡率が増加したという『ベロテック事件』に関する報告

 

そんな事件があったんですね。
F先生
F先生
ほむほむ
ほむほむ
その他の気管支拡張薬が安全というわけではなく、他のSABAにも濫用はリスクがある。
気管支拡張薬の濫用が喘息死を増やすっていうことは1970年代から話が結構あって1990年代ぐらいまで続くような話だったんだ。
でもね、喘息の大本にある気道の炎症に関してもまだ十分な知識がなかったし、他に変わる治療がなかなかなかったからSABAの濫用はあって仕方がなかった面もあるとは思う。

 

■ 吸入ステロイド薬と長時間効くタイプの気管支拡張薬。

ほむほむ
ほむほむ
そして気道の炎症を抑えるという治療を普及させた最大の功労者は吸入ステロイドだよね。
1978年に吸入ステロイドのベクロメタゾンが使われるようになったんだけど、うまく吸入するためのデバイスもなかったんだ。
そして1990年代になってようやくフルチカゾン(フルタイド)が使えるようになって普段の治療もうまくいく方が増えた。
その結果で、SABAの濫用がかなり減った印象がするね。
今に通ずる治療ですよね。
F先生
F先生
ほむほむ
ほむほむ
そうだね。今に通ずる治療のひとつに、LABA(ゆっくり気管支を広げる気管支拡張薬)もあるよね。
実はLABAに関しても一時、SNS試験やSMART試験という研究結果で、リスクが指摘されていたんだ。

長時間作用型気管支拡張薬(LABA)の枠組み警告が解除されたことに関する報告

 

そうなんですね。
LABAもリスクがあるということですか?
F先生
F先生
ほむほむ
ほむほむ
ここに関しては、まだ難しい疑問点が残ってはいるんだけど…
ほむほむ
ほむほむ
LABAの濫用もリスクがあるかもというそれらの研究報告を受けて、FDA からBOX警告がだされたんだ。
BOX警告って言うのは、『かなりリスクに懸念がありますよ』と赤枠にいれて表示されるというものだ。
そして、各メーカーにLABAの安全性を確認するように通達したんだ。
それで最近になって、成人では1万人以上、子どもでも6000人以上というランダム化比較試験を発表されて、安全性に一応の決着がついたことになり、BOX警告が取り下げられることになったわけだ。

フルチカゾン(フルタイド)単独とフルチカゾン+サルメテロール(アドエア)の安全性評価比較試験: 大規模ランダム化比較試験

小児喘息治療においても、フルチカゾンにサルメテロール追加は重大なリスクを増加させない: 大規模ランダム化比較試験

 

ランダム化比較試験で数千人とか1万人とか、すごい数ですね。
F先生
F先生
ほむほむ
ほむほむ
そうだよね。気が遠くなるような数だよね。

 

■ 気管支拡張薬に起こりやすい、行動の強化。

ほむほむ
ほむほむ
それはさておき、最初の話にもどろうか。
SABAにしてもLABAにしても、かなり短時間に有効性があるから、その行動は強化されやすいんだ。
行動強化?
F先生
F先生
ほむほむ
ほむほむ
そう。三項随伴性といって、ある行動をした後にそのひとにとって良い結果があるとその直前の行動が強化されやすいんだ。
すると、喘息の患者さんが、症状が出た時のアクションとしてはSABA吸入をすると、その直後に楽になるよね。つまり、SABA吸入は強化されやすい。

行動分析学の基礎

 

ははあ。なるほど…
F先生
F先生
でも、毎日の吸入ステロイドで症状が安定しても、直後にいいことが起こるわけではないから、行動は強化されにくい
確かに。行動科学的に考えるとそうなるわけですね。
F先生
F先生

 

■ 行動が強化されにくい毎日の吸入ステロイド。どのように説明するか?

ほむほむ
ほむほむ
そう。
ところで先生は毎日歯磨きをしているよね?
もちろんです。
F先生
F先生
ほむほむ
ほむほむ
多くの人は、いま虫歯がなくても毎日歯磨きをしているよね。
虫歯でひどくなって痛み止めを飲めばいいや、そんなふうに考えているケースは、そうそうないよね。
それはそうですね。
F先生
F先生
ほむほむ
ほむほむ
喘息の治療において、毎日の吸入ステロイドは歯磨きにあたる。
そして、SABA吸入や内服は、虫歯がひどくなったときの痛み止めですよ、ってお話するとどうでしょう
ああ、それはわかりやすいですね!
F先生
F先生

 

■ 気管支拡張薬の濫用を抑えるための『アクションプラン』。

ほむほむ
ほむほむ
そのうえで、アクションプランを提示するといいかもしれない。
アクションプラン?
F先生
F先生
ほむほむ
ほむほむ
アクションプランというのは、『この目安で次に、具体的にどうするかをプランニングする』ことだ。

アクションプランシート

 

『吸入を適宜』ではなく、と具体的に指示をするわけですね。
F先生
F先生
ほむほむ
ほむほむ
具体的なプランをお話することは重要だよね。
『吸入しちゃだめ』では、SABAに対してのリスクを過大評価することになって、大きな武器をひとつ捨ててしまう可能性だってあるから。
こういった、具体的なプランを提示することを『行動的翻訳』といったりするね。
なるほど…
よくわかりました!
虫歯の話は、すぐ使えそうですね!
ありがとうございました。
F先生
F先生

…こんな感じでまた、スモールセッションは終了ー。

 

(ほむほむ先生のプチセッション、ときどき更新します! ご期待ください。)

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