ほむほむのプチセッション(9)乳アレルギーだけど低アレルゲンミルクが飲めない…どのように説明する?

【登場人物】

小児科11年目、小児科専門医 K先生

K先生

 

アレルギー医・ほむほむ

ほむほむ

■ 2020/6/19 16:45 外来が終わったときに…

いつもの午後の外来が終わったときに、K先生から、また難しいテーマの質問がやってきました。

 

■ 『乳アレルギー』の場合に、低アレルゲンミルクを勧めても、飲んでもらえないとき…

先生、質問いいでしょうか?
K先生
K先生
ほむほむ
ほむほむ
いいよー。なんだろう?
「乳アレルギー」の場合は、特に年齢が高くなったお子さんだと、難易度があがるな、と感じます。

乳アレルギーでは、なるべく年齢が低いうちに低アレルゲンミルクを導入するようにするようにしています。そうすると、早期に改善して軌道にのることが実感できるようになりました。患者さんにもそのようにお伝えしています。

K先生
K先生
ほむほむ
ほむほむ
そうだね。あくまで僕の個人的な考え方だろうけれど、乳アレルギーを発症したお子さんに関しては低アレルゲンミルクを早めに開始したほうがその後の乳アレルギーの改善がよいという報告があるから、僕らはその方針をとることが多いよね。

低アレルゲンミルクとプロバイオティクスの併用は、ミルクアレルギーを耐性化させるかもしれない

 

でも、乳アレルギーのあるお子さんに低アレルゲンミルクをおすすめしても、『低アレルゲンミルクはのまないので』といきなりビスケットをあげる患者さんもいらっしゃったりして、実際に症状がでたり、もしくは『何もなかったです』と言われることもあったりします

『危険ですよ』ってお伝えしてもなかなか伝わらないんです。どうしたらいいでしょうか?

K先生
K先生

 

■ 『食べられたこと』と『安全性』のハザマ。

ほむほむ
ほむほむ
そうだねえ。そういう話はよくあるけど、難しいテーマだよね。
僕は、もしビスケットが食べられたのなら、まずは『食べられた』ことに関して、最初に『食べられて良かったですね』とお伝えすることにしているんだ。
ほむほむ
ほむほむ
え?危険性をお話したほうがいいんじゃないんですか?
K先生
K先生
ほむほむ
ほむほむ
うん、もちろんその点もお話したほうがいいよね。

でも、食べられたこと自体は、一緒に喜んでいいと思うよ。その上で、その先の安全性に関する話もしたほうがいいよね。

どういう話をするんでしょうか?
K先生
K先生

 

■ 『安全性』をどうやって伝えるか。

ほむほむ
ほむほむ
うーん、そうだなあ。
たとえば、車通りの多い道に目隠しをして飛び出そうとしている人がいたら、先生はどうするだろう?
それはもちろん、ひきとめます。
K先生
K先生
ほむほむ
ほむほむ
そうだよね。リスクがあきらかだものね。
ほむほむ
ほむほむ
でも、リスクはあくまでリスクで、事故なくその道路を渡りきってしまう場合もあるでしょう?

そのときに、『渡れたじゃないか』とその人から言われても、『事故がなくてよかった、でもやっぱり危ないですよ』という話をすることになるよね。

これと同じ様に、僕らは医療的なリスクの経験とか知識を持っているぶん、そのリスクを伝えなきゃいけないね。

なるほど…
K先生
K先生
ほむほむ
ほむほむ
いくら『自分の(親御さんの)責任で行います』という話があっても、特に小児科ではちょっと視点が異なってくるよね。車通りが多い通りに、子どもの手をひいて無理に渡ろうっていう親御さんはそうそういないと思うんだ。そしてやっぱり僕らは止めるよね。
それはそうですよね。
K先生
K先生

 

■ 『目的』を共有するためのアドラー。

ほむほむ
ほむほむ
こういった『子どもの安全性を守るため』を伝えることは、大事な視点だと思うんだよね。
では、食べること自体がリスクだと思って、除去食をするっていう場合もあるんじゃないでしょうか?
K先生
K先生
ほむほむ
ほむほむ
うん。その考え方は短期的には正しい。
ほむほむ
ほむほむ
でも、乳を完全除去することを年齢が高くなるまで続けちゃうと、治療が難しくなってくることを、先生も実感しているでしょう?
先の予測をすることは、医療者の経験と知識があるからこそできることだから、その情報は伝える必要性もあるよね。
そのうえで、目的を共有する必要性があるんだ。
ほむほむ
ほむほむ
アドラーって知っているかな?
アドラー?
K先生
K先生

 

■ アドラーの目的論。

ほむほむ
ほむほむ
アドラーって、ユングやフロイトと並んで心理学では有名な学者なんだ。そのアドラーの提唱したテーマのひとつに『目的論』という考え方がある。
目的論…?
K先生
K先生
そう。
原因を追求することももちろん大事なんだけど、そのときに『悪者』を作ってしまいがちなんだね。そして目的と方法を取り違えやすくなったりするんだ。
ほむほむ
ほむほむ
ほむほむ
ほむほむ
かわりに、よりよい生産的な方法を模索するために、『何が目標か』を共有する必要性があるんだ。
何が目標か…
K先生
K先生

 

■ 目標を共有するために。

ほむほむ
ほむほむ
多分、多くの保護者さんに、乳アレルギーの治療の目標をお聞きすると、『園や学校で、他の人と同じ食事がとれるようになってほしい』とお答えになるよね。
そうですね。
K先生
K先生
ほむほむ
ほむほむ
そうしたら、最終目標は、園では150ml、学校では300mlとかを1回量として飲まないといけなくなるわけだね。であれば、今、目の前の同様の液状の食べ物である低アレルゲンミルク100mlは、飲めなければ目標を達成することはかなわないよね。
そうですよね。でも、それが飲めない…
K先生
K先生
ほむほむ
ほむほむ
うん、実はそれは保護者さんにもよくわかっている場合が多いんだ。
ほむほむ
ほむほむ
わかっていても、なかなか難しい場合がある。

その時のアンビバレンツな状況に板挟みになると、場合によっては指導する医療者を敵に思えるようになって、ビスケットを食べるといった賭けにでてしまう可能性があるんだね。

じゃあどうすればいいんでしょう。
K先生
K先生

 

■ 目標までにスモールステップを。

ほむほむ
ほむほむ
目標までの段階をさらにスモールステップにすることになるね。
スモールステップ…
K先生
K先生
ほむほむ
ほむほむ
10cmあがるのに難しければ、5cm刻みに、それが難しければ1cm刻みに、小さいステップを踏むことが必要な場合があるということだね。

そしていま、患者さんが目標までのどの段階にいるのかを意識していただく必要性があるね。そのうえで、スモールステップを踏むデメリットも意識していただくしかないよね。

ほむほむ
ほむほむ
Baked milkは、たしかに乳アレルギーの治療に有効かもしれないけど、『すでに寛解する可能性が高い子どもの寛解を早める程度』の効果しかないようなんだ。
ほむほむ
ほむほむ
でも、武器の一つには違いないよね。だからひとつの武器を手に入れたと思えばいい。だから一緒に喜んでいい。でも、意図的にチャレンジを何度もするのは、危ない車通りに子どもを引き入れることにほかならない。だから『子どもの安全性』を確保しないととてもじゃないけど勸められないことを何度も話さなきゃいけないんだね。

ベイクドエッグ(焼いた卵)やベイクドミルク(焼いた乳)は、免疫療法に使えるか?

加熱加工した卵や乳摂取は、アレルギーを改善させるか?:システマティックレビュー

 

ほむほむ
ほむほむ
そして、食べられたビスケットを食べること自体は悪いことじゃないんだけど、『では、目標はそのビスケットを食べること』だったかどうかを再度相談する必要性があるだろうね。
なるほど…もちろん、ビスケットを食べることが目標ではないけど、スモールステップの段階をひとつ上がったと考えれば、目標を共有できますね。
K先生
K先生
ほむほむ
ほむほむ
そう。『今はビスケットを食べることで精一杯です』という場合だって、あるし、それは無駄ではないからね。でも、それはゴールじゃないはずなんだ。
そして、年齢が低いうちの治療の方が、年齢が高くなってからの治療よりもリスクが低いんじゃないかという報告もある。

乳幼児期の食物によるアナフィラキシーは、学童期より軽いかもしれない

 

ほむほむ
ほむほむ
野球が9回で終わってしまうとき、3回裏から勝負を始めるのと、9回裏まで勝負を先延ばしにするのと、逆転の芽は異なってしまうし、場合によってはすでに試合が終わってから勝負しようとしても難しいよね。

だから、目標をどこに置くのかは確認していく必要があるということ。

うーん、難しいですね。
K先生
K先生

 

■ アレルギーの克服までにどのようなステップを踏むか。

ほむほむ
ほむほむ
そりゃそうだ。年齢が長じるまで持ち越した乳アレルギーへの対応は、現在、食物アレルギーにおける難しい問題のひとつで、研究がさまざま行われつつもベターな方法はなかなか見つかってこない状況だからね。ゾレア(オマリズマブ)がもし臨床で使えるようになったとしても、まだ解決しなければならない問題は多そうだし。

オマリズマブ(ゾレア)は乳経口免疫療法の有害事象を抑制する

ゾレアは、多種食物アレルギーに対する経口免疫療法の安全性と脱感作の成功率を改善する

ほむほむ
ほむほむ
最初にもどるけど、年齢が低いうちに低アレルゲンミルクを飲めるかどうかをお話して、さらに目的までをスモールステップに分けて共有できるかというのが大きな分岐点じゃないかと思うよ。

まあ、僕自身が偉そうにひとに話しができるほどじゃないけど…。

少なくとも、年齢が低いうちの乳アレルギーは、丁寧に治療する価値がすごく高いと思っているのは先生と目的が共有できているよね?
そして、治療をしようというインフォメーションを行うこと、食べる話をすることは、医療者にとっても『こわい』し『大変』なんだよね。除去の話をするほうが実はずっと診療としては簡単だよね。
リスクを一緒に考えていこうという味方のはずだったのが敵に思われてしまってはお互い不幸だし、目標のすり合わせと、今立っている場所をときどき再確認することは重要じゃないかなあ。

そうですね!
難しいけど、なんとなくわかりました。
ご家族とまた話し合ってみます。ありがとうございます!
K先生
K先生

 

注意点:この会話では『経口免疫療法』の視点も含めたテーマになっていますが、『経口免疫療法』はリスクがあるために一部の専門病院で行っている治療法です。ここでは『乳アレルギーのあるお子さんに、低アレルゲンミルクを飲んで頂くために、どのように医師患者関係を作っていくか』がテーマとお考えください。

 

…こんな感じでまた、スモールセッションは終了ー。

 

(ほむほむ先生のプチセッション、ときどき更新します! ご期待ください。)

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